訴訟で調査報告書が不可な理由 鑑定評価書との違い
訴訟を目的としているにもかかわらず、調査報告書の相談を受けることがあります。
しかも、このような相談は、決して少なくありません。
費用やスピードを考えると、鑑定評価書ではなく、簡易な調査報告書で対応できないかと考えるのは自然なことです。しかし、結論から言えば、訴訟を目的とする場合、調査報告書では対応できないケースが原則です。
では、なぜ調査報告書では不十分とされるのでしょうか。また、実務ではどのような書面が求められるのでしょうか。
本記事では、調査報告書と鑑定評価書の違い、ガイドライン上の位置づけ、そして意見書との使い分けについて、実務の観点から分かりやすく解説します。
最後まで読めば、「どの書面を選ぶべきか」を自分で判断できるようになります。
この記事を読んで分かること
- 訴訟では調査報告書は原則不可
- 鑑定評価書が証拠として必要
- ガイドライン上の取扱いを解説
- 意見書との違いと使い分け
- 不動産価格・賃料評価の注意点

訴訟で調査報告書は使える?結論から解説
結論:訴訟では調査報告書は基本的に不可
「訴訟に必要なので、調査報告書をお願い出来ますか?」という相談は少なくありません。
ここでいう調査報告書とは、いわゆる簡易評価書のことです。
財産分与や遺産分割協議の相談の時に、多いように感じます。たまに、賃料交渉の時にもあります。
結論をはじめにお伝えしますと、訴訟を目的としている場合には、調査報告書は不可です。
より正確にいいますと、訴訟の場合には、不動産鑑定評価基準に則った不動産鑑定評価書が必要です。一般的には、正式な不動産鑑定評価書、といわれるものです。
なぜ、不可かといいますと、ガイドライン(不動産鑑定士が不動産に関する価格等調査を行う場合の業務の目的と範囲等の確定及び成果報告書の記載事項に関するガイドライン)にそのように記載されているからです。
従いまして、訴訟目的で、調査報告書を依頼される場合には、お断りせざるをえません。
ガイドラインの内容は、不動産鑑定に携わっていない方は、当然ご存知ないでしょうから、前記のような説明をし、更に事情をお伺いして上で、個別に対応しています。その結果、依頼を辞退される方もおられます。
不動産鑑定士が不動産に関する価格等調査を行う場合の業務の目的と範囲等の確定及び成果報告書の記載事項に関するガイドライン

なお、意見書というものも裁判では、よく使われます。この意見書については後述しますが、最低限以下については知っておいて下さい。
これもガイドラインの説明になりますが、正式な鑑定評価であろうと、簡易な調査報告であろうと、価格若しくは賃料を示すことが目的の場合には、ガイドラインの適用対象となります。
価格若しくは賃料を示す、と記しましたが、そうしますと価格若しくは賃料を示すことが目的なければ、ガイドラインの適用対象となりません。
そこで、訴訟でよく使われるのが、相手方が出してきた鑑定評価書を検証する報告書です。この場合には、価格や賃料を示すことが目的ではありません。
この報告書のことを意見書と称することが多いです。
調査報告書では不可な理由
では、なぜ、訴訟では調査報告書では不可とされているのでしょうか。
訴訟は、その結果により、重大な影響を与えますので、鑑定評価書よりも簡易的な扱いとなる調査報告書では、目的にはかなわない、ということです。
参考に、ガイドラインを掲載します。
大きな影響を与えると判断される場合が例示されています。大きな影響を与えるので、鑑定評価書でなければならない、ということになります。
下記の(11)をご覧ください。
以下の(7)から(12)は、一般的には、公表される第三者又は開示・提出先に大きな影響を与えると判断される場合である。
(7)倒産法制における否認要件(不動産等売却時の適正価格の判断) cf)「破産法第161条」、「民事再生法第127条の2」、「会社更生法第86条の2」
(8)標準地における公共用地の取得、国有・公有財産の使用や処分に伴うもの。 cf)「公共用地の取得に伴う損失補償基準」(用対連)、「国有財産評価基準」(財務省)、「公有財産規則」(地方公共団体)
(9)担保評価(一定額以上の場合) cf)「預金等受入金融機関に係る検査マニュアル」(金融庁)
(10)関連会社間取引に係る土地・設備等の売買の適正価格の証明としての評価 cf)「関係会社間の取引に係る土地・設備等の売却益の計上についての監査上の取扱い(昭和52年8月8日公認会計士協会監査委員会報告第27号)」
(11)訴訟に使用するための評価(原告又は被告が証拠として提出する価格調査、裁判所の要請により行われる価格調査)
(12)会社更生法における更生会社の財産評価、民事再生法における再生債務者の財産評価
このようにガイドラインに明確に記載されている以上、どうしても調査報告書をお願いします、ということになりますと、お断りせざるをえません。

なぜ調査報告書を依頼されるのか(実務でよくある背景)
それでも調査報告書をお願いされる理由として、以下のような事情があるのかと考えます。
- 「鑑定評価は費用が高い」という認識
- スピード重視で簡易資料を選びたい
- 「鑑定士が作れば何でも同じ」という誤解
鑑定評価は費用が高い
訴訟を前提とした鑑定評価では、通常のケースよりも鑑定費用は高くなる場合があります。
ただでさえ、調査報告書よりも鑑定評価書の方が、費用が高いのに、更に、高額になるとすると、依頼をされる側からすると、少しでも安い、調査報告書を何とか活用できないか、と考えるお気持ちは分かります。
しかし、裁判の結果次第では、重大な影響を与える訳ですから、正式な鑑定評価書の活用を検討してもらいたいところです。
スピード重視
調査報告書は、鑑定評価書を簡略化、もしくは一部省略をしていますので、確かに、鑑定評価書よりも短い期間で納品することが可能です。
こちらも仕方のないことなのですが、訴訟まで見据えているようでしたら、鑑定評価書の作成期間も考慮いただき、早めに手配をいただければ、必要な時に、鑑定評価書をご用意できるのではないかと考えます。
鑑定士が作れば何でも同じ
先に説明させていただいたとおりですが、一般の方が、ガイドラインの内容を知っているどうころか、その存在すら知らないことが通常ですから、仕方がありません。
しかし、鑑定評価書と調査報告書は異なるものであり、また、ガイドラインにおいても、鑑定評価書とするとされていますので、調査報告書での対応はお断りすることになります。
実際に裁判資料として調査報告書を目にすることも、稀にあります。
残念ながら、依頼を受けた不動産鑑定士が、ガイドラインをきちんと理解していないのでしょう。
有利に訴訟を進める目的で、調査報告書をお願いしたのに、不利な結果になるということも起こり得ます。
不動産鑑定士でもないのに、ガイドラインをきちんと理解するというのは酷ですが、折角、本ブログをお読みいただいておりますので、訴訟は原則、不動産鑑定評価書が必要、ということは覚えておいて下さい。
なお、調査報告書であれば、まだ仕方がないようにも思えますが、宅建業者(不動産業者)の査定書も、よく見ます。感覚的には、こちらの方が多いように思っています。
宅建業者の査定書は、売買時(仲介時)の価格根拠資料です。
裁判で使用するとなると、目的外使用となり、違反となる可能性もあるので、注意して下さい。

不動産鑑定評価と調査報告書の違い
不動産鑑定評価書と調査報告書の違いについては、下記のブログで整理していますので、ここでは簡単に説明します。
不動産鑑定評価書
まず、不動産鑑定評価書です。
不動産鑑定評価書は、不動産鑑定評価基準に則った報告書になります。
“不動産鑑定評価基準に則った”とはどういうことでしょう。
不動産鑑定評価基準には、鑑定評価書に記載しなければいけない内容が記載されており、その全てを記載(準拠)しているものが不動産鑑定評価書になります。
調査報告書
大前提として知っておいてもらいたいのは、調査報告書は不動産鑑定評価基準に則っていない、ということです。
また、ガイドラインでは、不動産鑑定評価基準に則っているものは鑑定評価書と定義していますが、則っていないものについては、鑑定、評価等の文言を使用してはいけない、としているだけです。
つまり、調査報告書というタイトルは慣例的に使用されているものに過ぎません。ですので、不動産鑑定会社によっては、価格調査書、価格査定書など、様々な呼称があります。同様に、意見書もガイドラインには規定されていません。
意見書
相手方の鑑定評価書を検証する報告書、鑑定評価書のセカンドオピニオンなど、価格や賃料を示すことを目的としない報告書として、意見書が使われます。
この意見書も、先のとおり、ガイドラインには規定されておらず、慣例的に意見書という名称が使われています。

まとめ
本記事で解説してきたとおり、訴訟を目的とする場合には、調査報告書ではなく、不動産鑑定評価書を用いることが原則です。これは単なる慣習ではなく、ガイドラインに基づいた明確なルールによるものです。特に、価格や賃料を示す評価については、その影響の大きさから、厳格な手続と記載内容を備えた鑑定評価書が求められます。
一方で、調査報告書はあくまで簡易的な資料であり、鑑定評価基準に則っていないため、訴訟の場面では役割が限定的です。また、宅建業者の査定書などをそのまま流用することも、本来の目的から外れるため注意が必要です。
ただし、相手方の鑑定評価書を検証する場合など、価格や賃料を提示しない分析資料としては「意見書」が活用されることがあります。 つまり、「何を目的とした書面なのか」によって、選ぶべき資料は大きく異なります。
費用やスピードの観点だけで判断してしまうと、結果的に不利な状況を招く可能性もあります。訴訟という重要な局面だからこそ、目的に応じて適切な書面を選択することが、結果を左右する重要なポイントとなります。