継続賃料の鑑定評価はなぜ不動産鑑定業者選びが重要なのか|実務と裁判の現場から解説
継続賃料の鑑定評価は増加傾向
ここ数年、継続賃料の鑑定評価に関するお問い合わせやご依頼が、明らかに増加しています。
これは一時的な現象ではなく、社会情勢や不動産市場の変化を背景とした、継続的な傾向だと感じています。
「継続賃料」とは、新しく物件を借りる際に参考にされる新規賃料とは異なり、すでに賃貸借契約が継続している物件について、現在の賃料を見直す(増額・減額する)場合の賃料を指します。
言葉としては「賃料」と一括りにされますが、
- 建物であれば「家賃」
- 土地であれば「地代」
と呼ばれ、法律上・鑑定上はいずれも「賃料」として同じ枠組みで扱われます。
このような継続賃料の鑑定評価の増加は、弊社だけの話ではなく、他の不動産鑑定業者においても同様の傾向が見られるのではないでしょうか。
なぜ、継続賃料の依頼が増えているのか
最大の理由は、賃料水準そのものが上昇していることです。
近年、
- 都心部を中心とした賃料相場の上昇
- 地価の上昇に伴う固定資産税・都市計画税の増加
といった要因が重なり、賃貸人(貸主)の負担が確実に増えています。
賃貸人からすれば、
税金や維持費が増えているのに、賃料が据え置きのままでは、実質的な収益が目減りしてしまう
という状況です。
そのため、継続賃料の増額を検討せざるを得ないケースが増えているのが実情です。
しかし、賃借人(借主)に賃料の増額をお願いしたとしても、
すぐに快く承諾してもらえるケースは多くありません。
ここに、継続賃料問題の難しさがあります。
賃料交渉・調停・訴訟と鑑定評価の役割
賃料の増額交渉がまとまらない場合、次のステップとして、
- 調停
- 訴訟
へと進むケースも少なくありません。
この交渉・調停・訴訟のいずれの場面においても、
「現在の賃料が適正であるか」、「増額が妥当であるか」
を客観的に示す資料として、不動産鑑定評価書が重要な役割を果たします。
感情論や主観ではなく、
- 市場動向
- 不動産の個別性
- 法令や鑑定評価基準
に基づいて算出された鑑定評価は、強力な証拠資料となります。
そのため、
鑑定評価が必要になれば、不動産鑑定業者にお願いすればいいのですが、
継続賃料の鑑定評価は、他の案件と比べると、難易度も高く、先のとおり裁判資料等となりますから、
鑑定業者選びも重要になってきます。
なぜ不動産鑑定業者選びが重要なのか
継続賃料の鑑定評価において、業者選びが特に重要となる理由は、主に次の3点です。
- 継続賃料の鑑定実績が豊富な業者は多くない
- 継続賃料の鑑定評価は、不動産鑑定の中でも難易度が高い
- 訴訟に発展するケースが多い
以下、それぞれについて詳しく解説します。
① 継続賃料の鑑定評価の実績が豊富な業者は多くない
不動産鑑定と一口に言っても、その業務内容は多岐にわたります。
例えば、
- 不動産売買に伴う価格評価
- 相続・贈与税評価
- 担保評価
- 再開発・公共用地評価
などです。
このように、不動産鑑定は多岐に渡ることから、全ての業務を万遍なく扱っている鑑定業者というのは、余程の大手以外にはないというのが実情です。
従いまして、不動産鑑定業者の主に取り扱って案件にもよりますが、継続賃料をほとんど手掛けたことがない、あるいは全く実績がないという業者も珍しくありません。
一方で、
- 弁護士事務所
- ビル管理会社
- 大家・オーナー側代理人
といった先と日常的に取引のある鑑定業者は、継続賃料の実績が比較的豊富な傾向があります。
弊社も、ビル管理会社との取引を通じて、継続賃料に関する鑑定評価を多数取り扱ってきました。
なお、継続賃料の鑑定評価は、訴訟となる可能性があり、相手方弁護士・鑑定士からの批判、それに対する反論をする、といった対応が必要となるため、積極的には受けたがらない鑑定業者もあるかもしれません。
② 継続賃料の鑑定評価は、不動産鑑定の中でも難易度が高い
継続賃料の鑑定評価は、「難易度が高い」とよく言われますが、
正確には、作業量・検討事項が非常に多いという点に特徴があります。
継続賃料の評価手法
不動産鑑定評価基準では、継続賃料について以下の4つの手法を原則として適用することが定められています。
- 差額配分法
- 利回り法
- スライド法
- 賃貸事例比較法
実務上は、賃貸事例比較法の適用が困難なケースが多く、
実質的には、差額配分法・利回り法・スライド法の3手法を中心に検討することになります。
作業工程が非常に多い理由
差額配分法を例にとると以下のとおりです。
- 差額配分法は名前のとおり、新規に貸し出した場合の賃料と現在の賃料の差額を配分する方法です。従って、差額配分法を適用する際には、新規に貸し出した場合の賃料を求める必要があります。これは新規賃料と言います。
- 新規賃料を求める過程で、土地でしたら、土地の価格、土地と建物でしたら、土地・建物の価格を求める必要があります。
整理すると、以下のとおりまとめられます。
- 土地、または土地・建物の価格を算定
- その価格を基に「新規賃料」を算定
- 新規賃料と現行賃料の差額を調整し、差額配分法による賃料が求められる。
例えば、更地の価格評価であれば①だけで済みますが、
継続賃料では、さらに二段階の検討が加わるため、
調査内容・判断ポイント・記載分量が圧倒的に増えるのです。
この他にも、利回り法、スライド法適用しなくてはいけません。
このため、経験の少ない鑑定士が対応すると、ミスや説得力不足が生じやすくなります。
③ 訴訟に発展するケースが多い
継続賃料の問題は、最終的に訴訟に発展するケースが珍しくありません。
訴訟では、
- 相手方鑑定士から鑑定評価書への批判
- 裁判所(または裁判所選任鑑定士)からの質問
などが生じることがあります。
そのため、
- 客観性
- 論理性
- 鑑定評価基準との整合性
を十分に備えた鑑定評価書でなければ、厳しい指摘に耐えることができません。
この点でも、実績豊富な不動産鑑定業者に依頼する意義は極めて大きいと言えます。
【具体例】業者選びが重要であることを示す2つのケース
ここでは、実際に弊社が受託した案件の中から、業者選びの重要性が分かる2つの事例をご紹介します。
ケース① 役所調査の見逃しによる重大な評価ミス
所有者(原告)が賃料増額交渉のために、継続賃料の鑑定評価を受託することになりました。
当たり前のことですが、賃料増額のためには、所有者が賃借人に、賃料交渉をする必要があります。
これはどういうことかと言いますと、原告側が先に鑑定評価書を提出することが必要になるということです。
賃借人(被告)は、賃料増額に応じられないということで、賃借人の方でも鑑定評価書を取得しました。
先に原告側が先に鑑定評価書を提出すると述べましたが、鑑定評価書は賃借人(被告人)に開示していますので、被告側の不動産鑑定士は、こちら(原告側)の鑑定評価書をみて、作業をすることが出来ますので、とても有利です。
逆の見方をすれば、最初に鑑定評価書を提出する原告側は不利、ということになります。
ところが、被告側鑑定士は、有利な状況であるにもかかわらず、重大な間違いを犯していました。
それは、役所調査の見逃しです。
被告側の鑑定評価書では、調査ミスがありました。詳細は伏せますが、ある手続きについて、手続き済みなのですが、その手続きをしていないということで大幅に減価していました。被告側からすれば、賃料を上げたくはないので、減価をしたくなる気持ちは分かります。
更に、被告側の弁護士も、その手続きをしていないのに、減価をしていないこちら側の鑑定評価書の信憑性は低いという批判を展開していました。
きちんと調査をしていれば、このようなことにはならなかった筈です。
しかも、先にも触れましたが、こちらの評価書を見ている筈なのに、このような間違いを犯していました。
ケース② ガイドラインの理解不足による不適切な資料提出
ガイドライン(不動産鑑定士が不動産に関する価格等調査を行う場合の業務の目的と範囲等の確定及び成果報告書の記載事項に関するガイドライン)というものがあります。
簡単に言ってしまえば、鑑定評価書を作成する際のルールを定めたものです。
このガイドラインによると、訴訟の場合には、利害関係者に重大な影響を与えるので、不動産鑑定評価基準に則った不動産鑑定評価書でなければならない、とされています。
こちらも先の例と同様に、所有者(原告)が賃料増額交渉のために、継続賃料の鑑定評価を受託することになったものです。
原告側ですので、先に鑑定評価書を提出し、それに反論をするということで、被告側は調査報告書を出してきました。
調査報告書というのは、簡易評価のようなものです。すなわち、不動産鑑定評価基準に載っていないものです。
このケースでも、こちらの鑑定評価書を見ているにもかかわらず、調査報告書を出しすというのはどういうことなのでしょう。ガイドラインに関する基本的な理解があれば、このようなことにはならなかった筈です。
継続賃料の鑑定評価、どの業者を選ぶべきか
継続賃料の鑑定評価が必要となった場合、
最優先で確認すべきは「継続賃料の実績」です。
単に
評価実績が多い
というだけでは不十分で、
継続賃料・訴訟案件をどれだけ手掛けてきたか
が重要な判断基準となります。
また、
- 実際に訴訟対応を行った経験があるか
- 弁護士との連携に慣れているか
といった点も、ぜひ確認しておきたいポイントです。
依頼者に「寄り添う姿勢」も重要です
最後に、もう一点アドバイスをさせていただきます。
不動産鑑定士は、公平、中立な立場にあります。しかし、鑑定評価額は判断ですので、鑑定士によって、鑑定評価額は異なってきます。
実際、裁判になると、判決は原告と被告の主張する賃料の平均程度になることが多いです。
それを考慮せずに、完全に中立な鑑定評価書を作成してしまい、相手方が低めの賃料を出してきたら、それに引きずられてしまいます。不利な結果となってしまいます。
これについても、訴訟のことが良く分かっている不動産鑑定士であれば、上手に意図を汲んでもらえることでしょう。