定期借家契約への切り替えは要注意 後で後悔しないために
普通借家契約から定期借家契約への切り替えを提案されたとき、「賃料が下がるなら得なのでは」と考えてしまう方は少なくありません。しかし、事業用の賃貸物件では、定期借家契約への切り替えが将来の営業継続や移転コストに大きな影響を与えることがあります。
特に、店舗、事務所、クリニック、美容室、飲食店など、立地が売上や顧客基盤に直結するテナントにとって、普通借家契約と定期借家契約の違いを理解せずに契約を変更することは大きなリスクです。定期借家契約は、契約期間が満了すると原則として更新されず、再契約できるかどうかは貸主との合意に委ねられます。
この記事では、普通借家契約と定期借家契約の違い、定期借家契約へ切り替える際の注意点、テナント側が確認すべき実務上のリスクを分かりやすく解説します。
賃料減額や契約条件の見直しを理由に定期借家契約への切り替えを求められている方は、目先のメリットだけで判断せず、営業場所を守れるか、移転費用を負担できるか、再契約できない場合に事業を継続できるかまで確認しておきましょう。
この記事を読んで分かること
- 普通借家契約と定期借家契約の違い
- 定期借家契約へ切り替えるリスク
- 賃料減額だけで判断する危険性
- テナントが確認すべき契約条件
- 営業継続性と移転コストの考え方
定期借家契約への切り替えは慎重に判断すべき
現在の場所で事業を続けたい場合は原則避ける
結論から申し上げると、現在の場所で事業を続けたいテナントが、普通借家契約から定期借家契約へ切り替えることは、原則としておすすめできません。
契約更新のタイミングや賃料改定の交渉時に、ビルオーナーや管理会社から、定期借家契約への切り替えを提案されることがあります。
しかし、不動産賃貸の実務上、この提案は単なる契約書の形式変更ではありません。テナントにとっては、将来その場所を使い続けられる権利の強さが大きく変わる可能性があります。
安易に普通借家契約から定期借家契約へ切り替えてしまい、数年後に再契約を断られ、移転や閉店を余儀なくされたテナントは少なくありません。
賃料減額だけで判断するとリスクが大きい
通常、定期借家契約への切り替えを求められる場合には、賃料の減額、フリーレント、更新料の免除など、テナントにとって一見魅力的な条件が提示されることがあります。
しかし、賃貸実務の観点から見ると、数万円の賃料減額よりも、将来の営業継続性、移転コスト、顧客離れ、内装投資の回収可能性の方がはるかに重要です。
そのため、一部の例外を除き、現在の場所で営業を継続したいテナントが定期借家契約へ切り替えることは、慎重に避けるべき判断といえます。
以下では、なぜ定期借家契約への切り替えが危険なのかを、賃貸借契約の仕組みと実務上のリスクに分けて解説します。
普通借家契約と定期借家契約の違いとは
この記事が対象とするテナント
まず、今回の記事の対象となる方を整理します。
主に対象となるのは、店舗、事務所、倉庫、クリニック、サロンなど、住宅以外の用途で建物を借りている事業者の方です。
その中でも、現在の契約が定期借家契約ではなく、普通借家契約である方に向けた内容となります。
普通借家契約は更新されやすい契約形態
普通借家契約では、契約期間が満了しても、貸主側に正当事由がなければ、原則として契約は更新されます。つまり、借主が現在の場所を使い続けられる可能性が比較的高い契約形態です。
定期借家契約は期間満了で終了する契約形態
一方、定期借家契約は、契約で定めた期間が満了すると、更新されることなく契約が終了します。再契約は可能ですが、あくまで貸主と借主の双方が合意した場合に限られます。
この違いは、単なる法律用語の違いではありません。店舗経営者にとっては、営業場所を守れるか、内装投資を回収できるか、既存顧客を失わずに済むかという、事業そのものに関わる問題です。
すでに定期借家契約で借りている方や、当初は普通借家契約だったものの既に定期借家契約へ切り替えている方は、現在の契約内容を確認したうえで、再契約条件や終了通知の有無を慎重に確認する必要があります。
これから賃貸物件を借りる方が確認すべき契約形態
物件探しの段階で契約形態を確認する
本題に入る前に、これから賃貸物件を借りる方に向けても、重要なポイントをお伝えします。
気に入った物件が見つかった場合でも、契約形態が普通借家契約なのか、定期借家契約なのかは必ず確認してください。
募集条件が定期借家契約となっている場合、普通借家契約に変更してほしいと交渉しても、貸主側が応じないケースは多くあります。
ただし、オーナーによっては、最初の契約期間だけ定期借家契約とし、入居後の使用状況や賃料支払いに問題がなければ、再契約時に普通借家契約へ変更する余地がある場合もあります。
事業用物件では賃料より契約の安定性も重要
事業用物件の場合、立地、看板効果、通行量、既存顧客との距離、内装工事費などを総合的に考える必要があります。賃料だけでなく、契約の安定性も物件選びの重要な判断材料です。
同じ賃料水準であれば、一般的には定期借家契約よりも普通借家契約の方が、借主にとって有利な契約形態といえます。
なぜ普通借家契約から定期借家契約への切り替えを提案されるのか
貸主側は契約終了の選択肢を確保したい
では、どのような場面で、普通借家契約から定期借家契約への切り替えを提案されるのでしょうか。
不動産賃貸の実務上、大きな理由は「将来、貸主側が契約を終了させやすくしたい」という点にあります。
定期借家契約では、再契約可と記載されていることがあります。しかし、再契約可とは「必ず再契約できる」という意味ではありません。
貸主が再契約に応じなければ、契約期間の満了により賃貸借契約は終了し、テナントは退去を検討しなければなりません。
貸主側がそのような選択肢を確保したい背景には、主に次のような事情があります。
代表的な理由は二つです。
理由1:建て替え・取り壊し・大規模修繕を予定している
築年数の古いビルや、再開発の可能性があるエリアでは、将来的な建て替えを見据えて、テナントとの契約関係を整理しておきたいという貸主側の事情があります。
理由2:現在の賃料が相場より低く、賃料増額が難しい
長年入居しているテナントの場合、周辺相場に比べて賃料が低くなっていることがあります。貸主としては、退去後に新しいテナントを募集した方が高い賃料を得られると考えることがあります。
ただし、普通借家契約のままでは、貸主が一方的に契約を終了させることは容易ではありません。そのため、賃料減額などの条件を提示しながら、定期借家契約への切り替えを求めることがあります。
このとき、テナント側が「賃料が下がるなら得だ」と判断してしまうと、将来の営業場所を失うリスクを十分に評価しないまま、重要な権利を手放してしまうことになります。
テナントが後悔しやすい理由
なぜ後悔するケースが多いのでしょうか。
再契約できないと移転を迫られる
定期借家契約では、契約期間が満了すると、契約は更新されずに終了します。貸主が再契約に応じなければ、テナントは原則として別の物件を探す必要があります。
しかし、店舗や事務所の場合、同じ商圏、同じ導線、同じ面積、同じ賃料水準の物件を見つけることは簡単ではありません。特に飲食店や美容室など、固定客が立地に紐づいている業種では、移転そのものが売上減少につながります。
移転コストは賃料減額分を上回ることがある
さらに、移転先の保証金、礼金、仲介手数料、内装工事費、設備移設費、看板工事費、営業停止期間中の売上減少などを考えると、数年間の賃料減額分を大きく上回る負担が発生することも珍しくありません。
したがって、今後も現在の場所で事業を続けたい場合には、定期借家契約への切り替えは極めて慎重に判断すべきです。
定期借家契約に切り替えてもよい可能性があるケース
もっとも、すべてのケースで定期借家契約への切り替えが絶対に不利というわけではありません。
不動産賃貸の実務上、定期借家契約への切り替えを検討してもよいのは、主に次のような場合です。
近い将来に退去・移転する予定が明確にある場合
たとえば、数年以内に移転、閉店、事業承継、規模縮小を予定しており、現在の場所に長く留まる必要がない場合には、定期借家契約への切り替えによる賃料減額メリットを享受できる可能性があります。
移転計画と資金計画が立っている場合
二つ目は、退去時期と契約満了時期をテナント側でコントロールでき、移転計画や資金計画がすでに立っている場合です。
確認すべき契約条件
ただし、その場合でも、賃料減額額、契約期間、再契約の可否、中途解約条項、原状回復義務、終了通知の方法などを総合的に確認する必要があります。単に「賃料が下がるから」という理由だけで判断するのは危険です。
オーナー側から見た定期借家契約の実務上のメリット
オーナーにとっては合理的な活用場面もある
ここまではテナント側の視点で説明してきましたが、オーナー側から見ると、定期借家契約には合理的な活用場面があります。
たとえば、建て替え予定がある建物、大規模修繕を予定している建物、将来的に自己使用や売却を検討している建物では、契約期間の見通しを立てやすい定期借家契約が有効に機能することがあります。
有効に成立させるには手続面の注意が必要
ただし、オーナー側であっても、定期借家契約を有効に成立させるためには、契約書面、事前説明、終了通知など、法的・実務的な手続を適切に行う必要があります。
まとめ|定期借家契約への切り替えは賃料減額より営業継続性を重視する
目先の賃料減額より将来の営業継続性を重視する
今後も現在の場所で事業を続けたいのであれば、普通借家契約から定期借家契約への切り替えは、簡単に承諾すべきではありません。
定期借家契約への切り替えで移転を余儀なくされた事例
最後に、実際にあった事例をもとに、定期借家契約への切り替えがどのような結果を招くことがあるのかを紹介します。
その方は、とても人気のあるエリアの好立地の場所で、居酒屋を経営していました。
私もそのお店に行ったことがあります。
何度目かの訪問時に、今度転居をする、という話しを聞きました。
賃料減額を理由に切り替えを承諾した経緯
詳しく話を聞くと、不動産会社から賃料を下げる代わりに定期借家契約へ切り替える提案を受け、深く検討しないまま承諾してしまったとのことでした。
当時は、賃料が下がるというメリットに意識が向き、定期借家契約に切り替えることで将来再契約できない可能性があることを十分に理解していなかったようです。
そもそも、契約時に定期借家契約の意味や再契約リスクについて、十分な説明があったのかも疑問が残ります。
再契約不可により代替物件を探すことに
契約終了が近づいた段階で再契約不可とされ、慌てて代替物件を探しましたが、同じエリアで同等の条件の物件は見つかりませんでした。
結果として、以前よりも立地が劣り、面積も小さい物件へ移転せざるを得ませんでした。
人気エリアでは空き店舗が少なく、希望条件に合う物件を見つけること自体が難しいため、やむを得ない選択だったのだと思います。
立地変更が事業に与える影響
ですが、数年もすると、お店は閉店してしまいました。
詳しい事情までは分かりませんが、立地の変化により集客力が落ち、以前のような営業が難しくなった可能性があります。 この事例から分かるように、定期借家契約への切り替えは、単なる契約条件の変更ではなく、事業の将来を左右する重要な判断です。賃料減額という目先の利益だけでなく、営業継続性、移転コスト、顧客基盤、内装投資の回収可能性まで含めて、慎重に検討することが大切です。
定期借家契約について、特段解説をせずに話しを進めてしまいましたが、定期借家制度について、基本から理解したい方は、以下を参考にして下さい。