月例経済報告 令和7年10月 ー住宅建設・倒産件数の変化と今後の見通しー

月例経済報告 令和7年10月 ー住宅建設・倒産件数の変化と今後の見通しー

令和7年10月の月例経済報告では、景気の基調判断は「米国の通商政策による影響が自動車産業を中心にみられるものの、緩やかに回復している」とされ、前月と同様の表現が続いています。
個人消費や設備投資は「持ち直しの動き」「緩やかな持ち直し」とされ、景気全体としては回復基調を維持しているものの、力強さには欠ける状況です。公共投資は堅調、輸出は横ばい、輸入は持ち直しと、外需・内需ともに大きな変化は見られません。企業収益や業況判断も「改善に足踏み」「おおむね横ばい」とされ、企業活動は慎重な姿勢が続いています。

今月の報告で注目すべきは、前月と比較して表記に変化が見られた項目が「住宅建設」と「倒産件数」の2つに絞られた点です。
米国の関税政策の影響が強く出ていた前月までと異なり、10月は比較的安定した記述が多く、景気の変動要因が限定的になっていることがうかがえます。


住宅建設は、建築物省エネ法改正に伴う駆け込み需要の反動減が続いており、「このところ弱含んでいる」との表現が継続しました。ただし、8月の新設住宅着工戸数は前月比0.1%減と微減にとどまり、年率71.1万戸と底堅さが見え始めています。これは、駆け込み需要の反動減が一巡し、急激な落ち込みから安定局面に移行しつつあることを示しています。

一方、倒産件数は「おおむね横ばい」から「このところ増加がみられる」へと変化しました。8月の805件から9月には873件へと増加し、負債総額は微減にとどまっています。これは、中小企業を中心に資金繰りの悪化が進んでいることを示唆しており、背景には建築需要の反動減、金融環境の引き締め、原材料価格の高止まりなど複数の要因が絡んでいます。
景気全体は緩やかな回復基調を維持しているものの、企業の足元には不安定要素が残っており、今後の動向には注意が必要です。

この記事を読んで分かること

  • 景気は緩やかな回復基調を維持
  • 住宅建設は駆け込み需要の反動減で弱含み
  • 新設住宅着工戸数は微減で底堅さが見える
  • 倒産件数は横ばいから増加へ転換
  • 中小企業の資金繰り悪化が背景
  • 景気下振れリスクは米国政策・物価上昇・金融市場変動

1.令和7年10月分について

(1)主要な項目

主要な項目を、令和7年9月令和7年10月について、以下掲載します。

令和7年9月令和7年10月
基調判断景気は、米国の通商政策による影響が自動車産業を中心
にみられるものの、緩やかに回復している
景気は、米国の通商政策による影響が自動車産業を中心
にみられるものの、緩やかに回復している
個人消費持ち直しの動きがみられる持ち直しの動きがみられる
設備投資緩やかに持ち直している緩やかに持ち直している
住宅建設建築物省エネ法等改正に伴う駆け込み需要の反動もあり、このところ弱含んでいるこのところ弱含んでいる
公共投資堅調に推移している堅調に推移している
輸出おおむね横ばいとなっているおおむね横ばいとなっている
輸入持ち直しの動きがみられる持ち直しの動きがみられる
貿易・サービス収支赤字となっている赤字となっている
生産横ばいとなっている横ばいとなっている
企業収益米国の通商政策による影響が自動車産業を中心にみられる中で、改善に足踏みがみられる米国の通商政策による影響が自動車産業を中心にみられる中で、改善に足踏みがみられる
業況判断おおむね横ばいとなっているおおむね横ばいとなっている
倒産件数おおむね横ばいとなっているこのところ増加がみられる
雇用情勢改善の動きがみられる改善の動きがみられる
国内企業物価このところ横ばいとなっているこのところ横ばいとなっている
消費者物価上昇している上昇している
月例経済報告9・10月の比較。
住宅建設、倒産件数の表記に変化がある。

今月は、表記に変化が見られたのは、住宅建設と倒産件数の2つです。
米国の関税政策の影響により、先月までは、比較的変化のある項目が多かったですが、今月は2つに留まります。
以下、記述に変化のありました住宅建設と倒産件数について詳しくみていきます。

解説

(2)住宅建設

①令和7年9月と令和7年10月の比較

令和7年(2025年)9月と10月の詳細を、以下記載します。

令和7年9月令和7年10月
住宅建設は、建築物省エネ法等改正に伴う駆け込み需要の反動もあり、このところ弱含んでいる。

新設住宅着工戸数は、4月は前月比42.2%減、5月は前月比15.6%減と減少が続いた後、6月は前月比22.4%増、7月は前月比9.9%増の年率71.2万戸となった。

利用関係別にみると、持家及び分譲住宅は、このところ弱含んでいる。

貸家は、横ばいとなっている。

なお、首都圏のマンション総販売戸数は、おおむね横ばいとなっている。

先行きについては、当面、弱含みで推移していくと見込まれる。
住宅建設は、このところ弱含んでいる。


新設住宅着工戸数は、8月は前月比0.1%減の年率 71.1万戸となった。



利用関係別にみると、持家及び分譲住宅は、このところ弱含んでいる。

貸家は、横ばいとなっている。

なお、首都圏のマンション総販売戸数は、おおむね横ばいとなっている。

先行きについては、当面、弱含みで推移していくと見込まれる。
住宅建設の比較。
10月新設住宅着工戸数は、微減に留まり、底堅さがみえる。

②解説

令和7年9月の住宅建設は、建築物省エネ法等の改正に伴う駆け込み需要の反動減が続き、全体として弱含みの状況が鮮明でした。
改正法の施行前には、省エネ基準強化を見越した駆け込み着工が一時的に増加しましたが、その反動で4月は前月比42.2%減、5月は15.6%減と大幅な落ち込みを記録しました。その後、6月には22.4%増、7月には9.9%増と持ち直し、年率換算で71.2万戸に達しました。しかし、この回復は一時的な調整の域を出ず、持家や分譲住宅は依然として弱含み、貸家は横ばい、首都圏マンション販売戸数も停滞が続いています。

一方、令和7年10月の報告では、住宅建設は「このところ弱含んでいる」との表現が継続し、先行きも当面は弱含みで推移する見込みとされています。ただし、着工戸数の動きには変化があり、8月は前月比0.1%減と微減にとどまり、年率71.1万戸と7月とほぼ同水準を維持しました。
これは、駆け込み需要の反動減が一巡し、急激な落ち込みから安定局面に移行しつつあることを示唆しています。9月時点では過去数か月の大幅な減少と増加を経て、需要の不安定さが強調されていましたが、10月時点では微減にとどまり、底堅さが見え始めています。

両月の違いは、着工戸数の変動幅にあります。9月は反動減からの回復過程にあり、統計上の振れ幅が大きかったのに対し、10月は微減で安定感が出てきました。ただし、持家・分譲住宅の弱含み傾向や貸家の横ばい、マンション販売戸数の停滞は共通しており、住宅市場全体の回復には時間がかかると考えられます。

背景には、省エネ基準強化に伴う建築コスト上昇や、金利動向、景気の先行き不透明感が影響しています。特に、改正法施行前の駆け込み需要が一服したことで、通常需要への移行が進む一方、消費者の慎重姿勢が続いている点が重要です。加えて、住宅ローン金利の上昇圧力や資材価格の高止まりが、持家や分譲住宅の需要を抑制しています。貸家が横ばいを維持しているのは、賃貸需要が底堅いことを示していますが、供給側の投資意欲は限定的です。

今後の見通しとしては、政策支援や金利環境の変化が住宅市場の方向性を左右する鍵となります。
政府による省エネ住宅への補助や、金融機関のローン条件緩和が進めば、持家や分譲住宅の需要回復につながる可能性があります。一方で、景気の不透明感が続けば、消費者の慎重姿勢は長引き、住宅市場の本格的な回復は遅れるでしょう。

住宅建設

(3)倒産件数

①令和7年9月と令和7年10月の比較

令和7年(2025年)9月と10月の詳細になります。

令和7年9月令和7年10月
倒産件数は、おおむね横ばいとなっている

7月は961件の後、8月は805件となった。

負債総額は、7月は1,670億円の後、8月は1,143億円となった。
倒産件数は、このところ増加がみられる

8月は805件の後、9月は873件となった。

負債総額は、8月は1,143億円の後、9月は1,124億円となった。
倒産件数の比較。
倒産件数は、横ばいから増加へと変化した。

②解説

令和7年9月の月例経済報告によると、倒産件数は「おおむね横ばい」とされ、企業倒産の動きは比較的落ち着いた状況にありました。具体的には、7月の倒産件数961件の後、8月は805件と大幅に減少しました。負債総額も7月の1,670億円から8月には1,143億円へと縮小しており、件数・負債額ともに減少傾向が確認できます。
この背景には、夏場の季節要因や、改正建築物省エネ法施行前の駆け込み需要による一部業種の資金繰り改善が影響した可能性があります。特に、建設関連や不動産業界では、法改正前の需要増により短期的な収益改善が見られ、資金繰りに余裕が生じた企業があったと考えられます。

しかし、令和7年10月の報告では、状況に変化が見られます。
倒産件数は「このところ増加がみられる」とされ、8月の805件から9月には873件へと増加しました。負債総額は8月の1,143億円から9月には1,124億円と微減にとどまっており、件数の増加に比べて負債額は横ばいに近い水準です。これは、小規模企業や中小企業の倒産が増えている一方で、大型倒産は発生していないことを示唆しています。

両月の違いを整理すると、9月時点では倒産件数・負債額ともに減少し、企業活動の安定感が見られたのに対し、10月時点では件数が増加に転じ、企業の資金繰りに再び不安が広がり始めています。この変化の背景には、複数の要因が考えられます。

第一に、建築物省エネ法改正に伴う駆け込み需要の反動減です。法改正前に活発だった建設・不動産関連の需要が一服し、関連業種の売上が減少したことで、資金繰りに影響が出始めた可能性があります。第二に、金融環境の変化です。令和7年後半にかけて、長期金利の上昇や金融機関の貸出姿勢の慎重化が進み、借入条件が厳しくなったことが中小企業の資金調達を難しくしています。第三に、原材料価格の高止まりや人件費の上昇といったコスト増要因も、収益を圧迫し、倒産リスクを高めています。

さらに、景気全体の不透明感も企業心理に影響しています。世界経済の減速懸念や為替の変動による輸入コスト増が、製造業や流通業に打撃を与えています。こうした環境下で、売上回復の見通しが立たない企業は、資金繰りの悪化により倒産に追い込まれるケースが増えていると考えられます。

今後の見通しとしては、倒産件数の増加傾向が続く可能性があります。特に、年末に向けて資金需要が高まる中、金融機関の貸出姿勢が引き締まれば、資金繰り難に陥る企業が増えるリスクがあります。
一方で、政府による中小企業支援策や補助金制度の活用が進めば、倒産増加を一定程度抑制できる可能性もあります。加えて、建設業界や不動産業界では、省エネ基準対応の新規需要が徐々に顕在化することで、関連企業の業績改善につながる期待もあります。

総じて、令和7年9月から10月にかけての倒産動向は、横ばいから増加への転換点にあるといえます。件数の増加は中小企業を中心に広がっており、景気の先行き不透明感や金融環境の変化がその背景にあります。今後は、政策対応や市場環境の改善が倒産動向を左右する重要な要素となるでしょう。

倒産

2.先行きについて

先行きについては、以下のとおりです。

令和7年9月令和7年10月
先行きについては、雇用・所得環境の改善や各種政策の効果が緩やかな回復を支えることが期待されるが、米国の通商政策の影響による景気の下振れリスクには留意が必要である。

加えて、物価上昇の継続が消費者マインドの下振れ等を通じて個人消費に及ぼす影響なども、我が国の景気を下押しするリスクとなっている。

また、金融資本市場の変動等の影響に一層注意する必要がある。
先行きについては、雇用・所得環境の改善や各種政策の効果が緩やかな回復を支えることが期待されるが、米国の通商政策の影響による景気の下振れリスクには留意が必要である。

加えて、物価上昇の継続が消費者マインドの下振れ等を通じて個人消費に及ぼす影響なども、我が国の景気を下押しするリスクとなっている。

また、金融資本市場の変動等の影響に引き続き注意する必要がある。
先行きの比較。
10月は9月と同内容となっている。

10月の記載は、先月と同内容となっています。

3.まとめ

令和7年10月の月例経済報告を総括すると、景気は「緩やかに回復している」との基調判断が維持され、個人消費や設備投資も持ち直し傾向を示しています。公共投資は堅調、輸出は横ばい、輸入は持ち直しと、外需・内需ともに大きな変化はなく、全体として安定感が見られます。
しかし、注目すべきは「住宅建設」と「倒産件数」の動きです。

住宅建設は、省エネ法改正に伴う駆け込み需要の反動減が続き、「このところ弱含んでいる」との表現が継続しました。4月・5月に大幅な減少を記録した後、6月・7月には持ち直し、8月は前月比0.1%減と微減にとどまりました。年率71.1万戸と底堅さが見え始めており、急激な落ち込みから安定局面に移行しつつあります。
ただし、持家・分譲住宅は依然として弱含み、貸家は横ばい、マンション販売戸数も停滞が続いており、住宅市場全体の回復には時間がかかる見込みです。背景には、建築コスト上昇、住宅ローン金利の上昇圧力、景気の不透明感があり、消費者の慎重姿勢が続いています。

倒産件数は、9月時点で「おおむね横ばい」だったものが、10月には「このところ増加がみられる」へと変化しました。8月の805件から9月には873件へと増加し、負債総額は微減にとどまっています。これは、中小企業を中心に資金繰りの悪化が進んでいることを示唆しており、背景には建築需要の反動減、金融機関の貸出姿勢の慎重化、原材料価格や人件費の高止まりなど複数の要因があります。
さらに、世界経済の減速懸念や為替変動による輸入コスト増も企業収益を圧迫し、倒産リスクを高めています。

先行きについては、雇用・所得環境の改善や政策効果が景気の緩やかな回復を支えることが期待される一方、米国の通商政策や物価上昇、金融市場の変動など、景気を下押しするリスクには引き続き注意が必要です。住宅市場の回復には政策支援や金利環境の改善が不可欠であり、倒産増加を抑えるためには中小企業向けの資金繰り支援策が重要となります。
景気は安定感を保っているものの、構造的な課題が残る中で、企業や消費者の慎重姿勢が続く可能性が高く、今後の動向を注視する必要があります。

11月の月例経済報告が公表されましたら、再度、解説致します。

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