賃料値上げ交渉と鑑定評価について

賃料値上げ交渉と鑑定評価について

突然、家賃を2倍以上にするという通知が届いた、というニュースがありました。

2倍以上というのは、かなり極端ですが、土地価格、建築費ともに上昇しており、それを反映して、賃料も上昇しています。

このような状況下では、賃料の値上げもやむなし、と考えていただいた方がいいかもしれません。

オーナーには、収益アップをはかるためにも、ぜひとも賃料を上げてもらいたいところです。

賃料については、オーナー側から見るか、テナント側から見るかで、考え方は変わってきます。

タイトルで値上げ交渉としておりますので、本ブログは、オーナー側の視点で説明をします。

オーナー側となりますと、賃料を上げる、ということになります。

一方で、テナント側にも、参考になる内容となっています。

なぜなら、オーナーがどのような対応をしてくるかが分かるからです。

相場としての賃料が上がっているからといって、現在入居しているテナントの方から、家賃を上げましょうか、などと言ってくることはあり得ません。

賃料を上げるには、オーナーから働きかけるしかありません。 本ブログは、この賃料値上げ交渉と値上げ交渉の有利な証拠となる鑑定評価について、説明をしていきます。

1 賃料の値上げ交渉に鑑定評価は活用できるのか

いきなり結論にはなりますが、鑑定評価(不動産鑑定評価書)は、賃料交渉において、非常に有利な証拠書類となります。

従いまして、賃料の値上げ交渉に、鑑定評価は活用できる、ということになります。

想像をしてもらいたいのですが、単に、賃料を上げてくれと口頭で言われるよりは、不動産鑑定士による不動産鑑定評価書の賃料は、現在の賃料よりも高いので、値上げをお願いします、といわれた方が説得力はあります。

そもそもではありますが、交渉においては、判断の基準となる資料がないと、テナントの方も、判断に困るでしょう。

不動産鑑定評価書によって、現在の賃料は、割安な水準にある、ということが分かれば、値上げも仕方ないと、理解してもらえる可能性があります。 ですので、交渉資料として、可能であれば、不動産鑑定評価書の取得を積極的に検討いただきたいところです。

2 鑑定評価を活用する際の注意点

前記のとおり、鑑定評価書を積極的に活用いただきたいところではありますが、注意点もあります。

 (1)段取りが重要

①段取りの重要性

鑑定評価書の取得だけに留まりませんが、賃料交渉には、まず段取りが重要です。

事前に、この段取りを十分に検討し、この段取りどおり交渉を進めるのが望ましいです。

もちろん、交渉事ですので、事前に想定していた段取り進むことはないかもしれません。

そうであったとしても、交渉の各段階で、取るべき対応なども異なってきますので、事前に段取りを検討しておきたところです。

本題の鑑定評価の活用になります。

後に述べますが、鑑定評価書をお願いするには、お金がかかります。

また、交渉の初めから、鑑定評価書を出されると、相手方も驚かれるでしょう。

驚かれるだけならいいのですが、いきなり鑑定評価書を見せられると、もしかしたら話し合いで賃料交渉が解決出来たかもしれないのに、相手に争う気があるのかと、誤解を与えてしまい、警戒をさせてしまう可能性があります。

交渉の段取りを予め立てて、その過程の中で、必要に応じて、鑑定評価書を取得したいところです。

そういう訳で、段取りが、改めて重要となります。

また、鑑定評価書も依頼して、すぐにできるものではありません。

賃料の鑑定評価は、価格の鑑定評価よりも時間がかかります。

目安として、1か月程度は、見ておく必要があります。 交渉そのものについては、別のブログでまとめていますので、よければ参照して下さい。

②具体的な段取り

では、具体的には、どのような段取りになるでしょうか。

標準的なケースを記載致します。

下図を見て下さい。 大まかには、以下のとおりになるものと思われます。

先に説明させていただいたとおり、最初の交渉で値上げが出来ましたら、鑑定評価書は不要となります。

また、鑑定評価書を調停の前に取るのか、調停時に取るのか、裁判に合わせて取るのかは、状況に応じて検討する必要があります。

一般的には、早めの取得がおすすめですので、調停前が望ましいでしょう。

すなわち、最初の交渉で話しが上手く進まないことが分かった段階になります。

調停前に、先方に鑑定評価書を提示することにより、相手方が、賃料の値上げについて、こちらが本気なのだという意思表示になります。 更に、調停の初めから、鑑定評価書があると、調停交渉の際の有利な証拠書類となるからです。

(2)費用がかかる

鑑定評価書を取得するには、不動産鑑定士に鑑定評価をお願いする必要があります。

当たり前のことですが、鑑定評価を依頼するには、お金がかかります。

一般の方からしますと、そもそも不動産鑑定士って、何をしている人なのか、と思われる程度の知名度かもしれません。

そもそも知名度の低い鑑定士ですから、その鑑定費用がいくらかかるのか、ということになりますと、想像もつかないかもしれません。

この鑑定費用ですが、特段の決まりはありませんので、不動産鑑定業者によって異なります。

業者によって異なるだけでなく、案件の場所や内容によっても変わってきます。

賃料の鑑定評価は、価格の鑑定評価よりも手数を要しますので、その分費用も高くなります。

更に、賃料交渉の場合には、訴訟に発展することも考慮に入れる必要がありますので、これもコスト増の要因となります。 数社に見積を取ることをおすすめします。

(3)鑑定評価を取る前に、まずは交渉から

先に、触れましたが、鑑定評価を取る前に、まずは交渉をしてみましょう。

鑑定評価書がなくても、賃料アップが可能となる可能性もあります。

ですが、ただ賃料を上げてくれといっても、説得力に欠けますので、最新の納税通知書や周辺の賃料相場を調べたものなどを用意したいです。

納税通知書は、簡単ですね。5~6月ぐらいに、市役所(東京23区は主税局)から送られてきます。

数年分の固定資産税・都市計画税の税額を比較して、税額が増えたので、それを根拠に値上げをお願いすることになります。

可能であれば、契約(更新)した時のものと、最新のものを比較したいです。

通常、賃貸借契約書には、公租公課の増減があったときには、賃料改定が可能、というようなことが書かれていますので、根拠のある方法となります。

もう一つの周辺の賃料相場ですが、これは、ビルの管理を業者にお願いしている場合には、その業者に相談してみるのがいいでしょう。 この段階で、賃料アップが出来れば、鑑定評価書を取得する必要はなくなります。

(4)鑑定業者の選択も重要

鑑定評価書を取得するに当たり、業者の選択も重要になってきます。

賃料の鑑定評価は、価格の鑑定評価と比較すると、件数は少ないため、業者によっては、賃料鑑定の実績があまりないところがある為です。

更には、訴訟にまで発展する可能性もあることから、訴訟の鑑定評価が豊富な業者ですと安心です。 先に、数社に見積を取ることをおすすめしましたが、単に、見積金額だけで、業者を選定すると賃料交渉が、上手く進まない可能性もでてきます。

(5)ビルの規模やテナントの賃料額にも注意

鑑定評価書を取得するのはおすすめですが、先にも説明させていただいたとおり費用がかかります。

ここで更に注意していただきたいのが、値上げによるメリット額と鑑定評価料との関連です。

賃料水準の高い、大規模なビルでしたら、値上げ額で、鑑定評価料をまかなうことが可能でしょう。

一方で、大規模なビルであっても、賃貸面積が小さい場合には、値上げ額は小さな水準に留まりますので、鑑定評価料をまかなうことは困難になるかもしれません。

なお、一つのテナントの値上げ額はそれほど大きくなくても、同一のビル内で複数のテナントに交渉する際には、2件目以降は鑑定料の割引が可能なこともありますので、トータルで検討することも重要です。 なお、たまに聞く話しですが、過去に賃料交渉に全く応じてくれないなどで、採算度外視で賃料交渉をする、というような場合もあるようですので、このような場合には、鑑定評価書を取得するハードルは下がるでしょう。

3 賃料の鑑定評価について

(1)新規賃料と継続賃料

①新規賃料

名前から、想像はつくかと思いますが、新規賃料というのは、新しく借りる場合の賃料となります。

鑑定の実務では、実際は、賃料の鑑定評価の大部分は、継続賃料の鑑定評価となります。

私の経験も、ほぼその通りです。

新しく借りる際に、鑑定を取るということは通常ないです。

賃貸募集されている物件の家賃が50万円だとして、鑑定を取ったら、40万円となったので、40万円で貸して欲しい、と言われても、40万円では貸さないでしょう。

また、新規に貸し出す募集賃料を調べる為に、鑑定を取るということも、通常ありません。

募集賃料を調べる度に、鑑定費用を払っていたら大変です。 以上により、新規賃料の鑑定評価は、実はあまりない、というのが現状です。

②継続賃料

こちらも名前から、想像がつくかもしれません。

既に、賃貸借を継続している場合の賃料となります。

賃料を上げて欲しいということは、現在賃貸借契約を締結している訳ですが、賃料交渉の際に必要となる賃料鑑定は、この継続賃料となります。 先の新規賃料の反対で、賃料鑑定の大部分は、恐らく継続賃料の鑑定であろうと思っています。

(2)新規賃料とする場合もある

賃料交渉の際には、継続賃料の鑑定が必要となりますが、新規賃料とする場合もあります。 これについて、次に説明します。

①現在の賃料がかなり安い場合

専門的な話しになりますので、詳細は割愛しますが、継続賃料の鑑定は、契約中の賃料がベースとなりますので、現在の相場の賃料と大きな開差があったとしても、大幅に上げるのが困難となることがあります。 このような場合に、現在の相場賃料との開差を強調する資料として、新規賃料の鑑定評価とすることも考えられます。

②直近合意時点が分からない場合

直近合意時点というのは、専門用語になりますが、最後に賃料を改定した時期となります。

継続賃料の鑑定では、直近合意時点をベースに鑑定をする必要があります。

ですので、この直近合意時点が分からない場合には、継続賃料の鑑定評価が出来ないことになります。

このような場合に、継続賃料の代わりに、新規賃料の鑑定評価とすることが考えられます。

売買で取得した物件の場合に、このようなことが起こり得ます。

従いまして、売買で取得した際には、現在入居中のテナントの賃料改定経緯が分かる資料をそろえてもらうことが、後々のトラブルを避ける為にも重要となります。 契約書などが、そもそもない場合などもありますが、その場合には、書面化してもらうことも考えて下さい。

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