令和7年地価調査まとめ ―全国の地価動向・注目地点・今後の地価はどうなる?―
はじめに
2025年9月に発表された「令和7年都道府県地価調査」は、全国21,441地点を対象に、2025年7月1日時点の地価を調査したものです。
本記事では、最新の地価動向を全国的な視点から分析し、特に注目すべき地点の動きや、今後の地価の見通しについて詳しく解説します。
不動産の購入・売却を検討している方や、資産運用を考える方にとって、地価の動向は重要な判断材料となります。ぜひ参考にしてください。

このブログを読んで分かること
- 地価調査の仕組みと役割
- 全国平均の地価は4年連続で上昇
- 都心部や地方都市で上昇率に差
- 上昇要因は景気回復・再開発、インバウンド
- 注目地点の地価変動と背景が具体的に解説されている
1. 全国の地価動向を読み解く
1-1. 地価調査の概要と調査方法
地価調査とは、国土利用計画法に基づき、各都道府県知事が毎年7月1日時点における土地の価格(基準地価格)を調査・公表する制度です。この調査は、全国の土地取引の適正化や、公共事業における用地取得、固定資産税や相続税などの課税評価の基準として活用される重要な指標です。
調査の対象となるのは、全国47都道府県に所在する21,441地点に及びます。これらの地点は、住宅地、商業地、工業地、宅地見込地など、土地の用途に応じて分類されており、それぞれの地域の実情を反映した価格が設定されます。調査は、各都道府県が選任した不動産鑑定士によって実施され、現地調査、周辺の取引事例の収集、地域の経済・社会情勢の分析などを通じて、適正な価格が評価されます。
地価調査は、国が実施する「地価公示」と並ぶ、日本の不動産市場における二大地価指標の一つです。地価公示は毎年1月1日時点の価格を国土交通省が公表するのに対し、地価調査は7月1日時点の価格を都道府県が公表します。これにより、年に2回、地価の変動を把握することができ、半年ごとの市場動向をタイムリーに分析することが可能となります。

また、地価調査の結果は、公共事業における用地取得価格の算定基準として活用されるほか、民間の不動産取引における価格交渉や、金融機関の担保評価、企業の資産評価、地方自治体の都市計画や土地利用計画の策定など、幅広い分野で活用されています。特に、近年では空き家対策や地方創生の観点からも、地価情報の重要性が高まっており、地域の実情を反映した地価の把握は、持続可能なまちづくりにおいて欠かせない要素となっています。
さらに、地価調査は、地価の変動要因を分析する上でも重要な資料となります。たとえば、人口動態の変化、交通インフラの整備状況、商業施設の開発状況、災害リスク、観光需要の変化など、さまざまな要素が地価に影響を与えるため、これらの要因を総合的に分析することで、地域ごとの課題や可能性を浮き彫りにすることができます。
このように、地価調査は単なる価格の公表にとどまらず、国や地方自治体、民間事業者、個人にとっても、土地に関する意思決定を行う上での基盤となる、極めて重要な情報源であるといえるでしょう。
1-2. 全国平均の地価動向
令和7年の地価調査によると、全国の地価は全用途平均で4年連続の上昇を記録し、前年よりも上昇幅が拡大しました。これは、コロナ禍からの経済回復や、都市部を中心とした再開発の進展、インバウンド需要の回復など、複数の要因が重なった結果と考えられます。
用途別に見ると、以下のような傾向が見られました。
- 住宅地:全国平均で1.0%の上昇(前年は0.9%)。都市部を中心に住宅需要が堅調に推移しており、特に交通利便性の高いエリアや子育て支援が充実した地域での上昇が目立ちました。
- 商業地:全国平均で2.8%の上昇(前年は2.4%)。インバウンド需要の回復や、再開発による商業施設の整備が進んだ地域での上昇が顕著でした。
- 工業地:全国平均で3.4%の上昇(前年と同率)。EC市場の拡大に伴う物流施設の需要増加が、工業地の地価を引き上げる要因となっています。
このように、全体として地価は堅調に推移しており、特に都市部や再開発が進む地域での上昇が全国平均を押し上げる結果となりました。

1-3. 地域別の傾向
地域別に見ると、三大都市圏と地方圏で地価の動向に明確な違いが見られます。
三大都市圏(東京・大阪・名古屋)
- 東京圏では、住宅地が+3.9%、商業地が+8.7%、工業地が+6.7%と、いずれの用途でも全国平均を大きく上回る上昇率を記録しました。特に都心部では、再開発やオフィス需要の回復、インバウンドの再開などが地価上昇を後押ししています。
- 大阪圏では、住宅地が+2.2%、商業地が+6.4%、工業地が+6.8%と、東京圏に次ぐ上昇を見せています。万博開催を控えた湾岸エリアの再開発などが影響しています。
- 名古屋圏では、住宅地が+1.7%、商業地が+2.8%、工業地が+3.3%と、他の二大都市圏に比べるとやや控えめな上昇にとどまりましたが、堅調な推移を見せています。
地方圏
- 地方四市(札幌・仙台・広島・福岡)では、住宅地が+4.1%、商業地が+7.3%と、三大都市圏に匹敵する上昇率を記録しました。特に福岡市では、人口増加と再開発が進み、商業地の地価上昇が顕著です。
- その他の地方圏では、住宅地は横ばい(0.0%)、商業地は+0.6%と、依然として低調な動きが続いていますが、長年続いた下落傾向から脱しつつある地域も見られ、今後の回復に期待が持たれています。

1-4. 地価上昇の要因
地価の変動には、さまざまな経済的・社会的要因が複雑に絡み合っています。令和7年の地価動向に影響を与えた主な要因は以下のとおりです。
- 景気回復の進展:新型コロナウイルス感染症の影響からの回復が進み、企業活動や個人消費が持ち直したことで、地価の上昇を後押ししました。
- インバウンド需要の回復:訪日外国人観光客の増加により、観光地や都市部の商業地における需要が高まり、地価の上昇につながりました。
- 再開発・都市再生の進展:大規模な再開発プロジェクトや都市再生事業が進行中の地域では、将来の発展への期待感が高まり、地価が上昇する傾向が見られました。
- 住宅需要の堅調さ:共働き世帯の増加や子育て支援策の充実、テレワークの普及による住環境重視の傾向などが、住宅地の需要を支えています。
- 物流施設の需要増加:インターネット通販の拡大に伴い、物流拠点としての工業地の需要が高まり、特に交通アクセスの良い地域で地価が上昇しました。これらの要因が複合的に作用し、令和7年の地価は全国的に上昇基調を維持する結果となりました。

2. 特徴的な地価動向を示した注目地点
令和7年地価調査では、全国的に地価の上昇傾向が続く中で、特に顕著な動きを見せた地点がいくつか確認されました。ここでは、地価の上昇が著しかったエリア、逆に下落が見られた地域、そして安定した推移を示した地域について、具体的な地点とその背景を交えて詳しく解説します。

2-1. 地価上昇が顕著だったエリア
北海道千歳市(商業地)
- 地点名:千歳5-2(末広2丁目122番2外内)
- 地価:155,000円/㎡
- 上昇率:+31.4%(全国1位)
北海道千歳市は、今回の調査で全国最高の上昇率を記録しました。背景には、次世代半導体の国産化を目指す「ラピダス」の進出があります。これにより、関連企業や技術者の移住が進み、住宅需要や商業施設のニーズが急増。千歳市は新千歳空港を擁し、交通アクセスにも優れていることから、今後も企業誘致や都市機能の拡充が期待され、地価の上昇が続く可能性があります。
長野県白馬村(商業地)
- 地点名:白馬5-2
- 地価:67,500円/㎡
- 上昇率:+29.3%
長野県白馬村は、スキーリゾート地として国内外からの観光客に人気があり、特に近年はオーストラリアやアジア圏からの訪日客が増加しています。高級ホテルやコンドミニアムの建設が相次ぎ、観光インフラの整備が進んだことで、商業地の需要が急増しました。自然環境の魅力とインバウンド需要の高まりが相まって、地価の大幅な上昇につながっています。
沖縄県宮古島市(住宅地)
- 地点名:宮古島-11
- 地価:24,000円/㎡
- 上昇率:+18.8%
宮古島市では、観光需要の回復とともに、リゾート開発が活発化しています。特に高級リゾートホテルや別荘地の開発が進み、移住者の増加も相まって住宅地の需要が高まりました。美しい自然環境と温暖な気候に惹かれた移住希望者が多く、今後も地価の上昇が見込まれます。

2-2. 地価が下落したエリア
北海道中川郡豊頃町(住宅地)
- 地点名:豊頃-1(茂岩末広町140番)
- 地価:2,800円/㎡
- 下落率:−6.7%
北海道の中川郡豊頃町では、人口減少と高齢化が進行しており、若年層の都市部への流出が続いています。地域経済の縮小や空き家の増加が地価に影響を与え、住宅地の需要が減少した結果、地価は大きく下落しました。今後の地域活性化策が求められるエリアといえるでしょう。
宮城県気仙沼市(商業地)
- 地点名:気仙沼5-2(本吉町津谷松岡18番)
- 地価:14,500円/㎡
- 下落率:−5.8%
東日本大震災からの復興が進んだ気仙沼市では、復興需要の一巡により、商業地の需要が落ち着きを見せています。加えて、地域経済の回復が鈍化していることもあり、商業地の地価は下落傾向にあります。今後は、観光資源の活用や新たな産業の誘致が鍵となるでしょう。

2-3. 地価が安定しているエリア
郊外のベッドタウン(埼玉県さいたま市・千葉県市川市など)
首都圏の郊外に位置するベッドタウンでは、都心へのアクセスの良さや、子育て環境の整備が進んでいることから、住宅需要が安定しています。特に、鉄道網の充実や再開発による利便性の向上が評価され、地価は大きく変動することなく、堅調に推移しています。今後も、共働き世帯の増加やテレワークの定着により、こうしたエリアの人気は継続する見通しです。
地方中核都市(岡山市・熊本市など)
地方中核都市では、人口減少の影響を受けつつも、再開発や交通インフラの整備が進んでいる地域では地価が安定、あるいは緩やかに上昇しています。たとえば、岡山市では駅周辺の再開発が進行中であり、熊本市では九州新幹線の整備効果が地価に好影響を与えています。これらの都市は、地方における経済・行政の中心地としての役割を担っており、今後も一定の地価安定が期待されます。
このように、地価の動向は地域の経済状況や社会的背景、政策の影響などによって大きく左右されます。上昇・下落・安定といった動きの背景を丁寧に読み解くことで、今後の不動産市場の動向をより的確に予測することが可能となります。
3-1. 今後の地価はどうなる?
令和7年の地価調査では、全国的に地価の上昇傾向が続いていますが、今後の動向はさまざまな要因によって左右されると考えられます。以下に、今後の地価に影響を与える主要な要素を整理して解説します。
金融政策と金利の動向
日本銀行の金融政策は、住宅ローン金利に大きな影響を与えます。これまでの低金利政策が住宅購入を後押ししてきましたが、今後、インフレ抑制や為替安定を目的とした金利引き上げが行われれば、住宅ローンの負担が増し、住宅需要の減退を招く可能性があります。特に、住宅ローンを利用して不動産を購入する層にとっては、金利の上昇が購入意欲を削ぐ要因となり得ます。
インフレと建築コストの上昇
建築資材や人件費の高騰は、土地の開発コストを押し上げ、結果として地価にも影響を及ぼします。特に都市部では、再開発や新築マンションの供給においてコスト増が価格に転嫁される傾向が強く、地価の上昇圧力となる可能性があります。一方で、コスト高が開発意欲を削ぐことで、供給の抑制につながり、地価の上昇を抑える要因にもなり得ます。
地方創生とインフラ整備の進展
政府が推進する地方創生政策や、交通インフラの整備は、地方都市の地価にポジティブな影響を与えると期待されています。新幹線の延伸や高速道路の整備、地域活性化プロジェクトなどが進むことで、地方への移住や企業進出が促進され、地価の底上げにつながる可能性があります。特に、テレワークの普及により、都市部から地方への人の流れが加速すれば、地方の住宅地や商業地の需要が高まることが予想されます。
国際情勢とインバウンド需要
国際情勢も地価に影響を与える重要な要素です。円安傾向が続けば、外国人投資家にとって日本の不動産は相対的に割安となり、都市部や観光地を中心に投資が活発化する可能性があります。また、訪日外国人観光客の増加は、ホテルや商業施設の需要を高め、商業地の地価を押し上げる要因となります。特に、京都や大阪、福岡、北海道などの観光都市では、インバウンド需要の回復が地価上昇を後押しするでしょう。
このように、今後の地価動向は、国内外の経済情勢、政策動向、社会構造の変化など、複数の要因が複雑に絡み合って決まっていきます。地域ごとの特性を踏まえた柔軟な分析と対応が求められる時代に入っているといえるでしょう。
3-2. 不動産市場の注目ポイント
- 再開発プロジェクト:東京・大阪・福岡などで進行中の再開発が地価を押し上げる要因に。
- 物流施設の拡大:EC需要の高まりにより、工業地の需要は今後も堅調に推移。
- 空き家対策と利活用:地方部では空き家の利活用が進めば、地価の下支え要因に。
3-3. 不動産購入・売却を検討する人へのアドバイス
- 購入のタイミング:金利上昇前の購入が有利。特に住宅ローンを活用する場合は早めの検討を。
- 売却の好機:地価が上昇している都市部では、今が売却の好機となる可能性。
- 専門家の活用:不動産鑑定士による評価を活用することで、適正価格での取引が可能に。
おわりに
令和7年の地価調査は、全国的に地価の上昇基調が継続していることを示しました。特に都市部や観光地、再開発エリアでは顕著な上昇が見られ、地方でも回復の兆しが見え始めています。今後の地価動向は、経済情勢や政策、地域の特性に大きく左右されるため、引き続き注視が必要です。不動産の購入や売却を検討する際は、最新の地価情報をもとに、専門家のアドバイスを受けながら慎重に判断することが重要です。