令和7年8月27日に発表された月例経済報告(令和7年8月)について、解説します。

令和7年8月27日に発表された月例経済報告(令和7年8月)について、解説します。

令和7年(2025年)8月27日に、令和7年8月の月例経済報告が発表されました。
今回の報告では、前月と比較して「住宅建設」「公共投資」「企業収益」の3分野において表現の変化が見られ、経済の動きに対する評価が微妙に変化しています。

住宅建設については、7月時点では「おおむね横ばい」とされていたものの、8月には「このところ弱含んでいる」と評価が後退しました。これは、建築物省エネ法等の改正に伴う駆け込み需要の反動が影響しており、持家・分譲住宅の着工戸数が減少傾向にあることが背景にあります。

一方、公共投資は7月の「底堅く推移している」から、8月には「堅調に推移している」と評価が上向きました。工事出来高や受注額などの指標が改善しており、補正予算の執行や地方自治体の事業着手が進んでいることが要因と考えられます。

企業収益については、7月は「改善している」とされていましたが、8月には「改善に足踏みがみられる」と評価が後退。米国の通商政策の影響が一部に見られ、製造業・非製造業ともに減益となっています。

この記事では、これら3分野の変化を中心に、月例経済報告の内容をわかりやすく解説していきます。

この記事を読んで分かること

  • 住宅建設は法改正の反動で弱含みに転じた
  • 公共投資は工事指標の改善により堅調に推移
  • 企業収益は通商政策の影響で足踏み状態
  • 持家・分譲住宅の着工数が減少傾向
  • 公共工事の受注額が増加し、成長期待が高まる
  • 景気回復には外部環境の影響に注意が必要

1.令和7年8月分について

(1)主要な項目

主要な項目を、令和7年7月令和7年8月について、以下掲載します。

令和7年7月令和7年8月
基調判断景気は、米国の通商政策等による影響が一部にみられるものの、緩やかに回復している景気は、米国の通商政策等による影響が一部にみられるものの、緩やかに回復している
個人消費消費者マインドの改善に遅れがみられるものの、雇用・所得環境の改善の動きが続く中で、持ち直しの動きがみられる消費者マインドの改善に遅れがみられるものの、雇用・所得環境の改善の動きが続く中で、持ち直しの動きがみられる
設備投資持ち直しの動きがみられる持ち直しの動きがみられる
住宅建設おおむね横ばいとなっている建築物省エネ法等改正に伴う駆け込み需要の反動もあり、このところ弱含んでいる
公共投資底堅く推移している堅調に推移している
輸出おおむね横ばいとなっているおおむね横ばいとなっている
輸入持ち直しの動きがみられる持ち直しの動きがみられる
貿易・サービス収支赤字となっている赤字となっている
生産横ばいとなっている横ばいとなっている
企業収益改善しているが、通商問題が及ぼす影響等に留意する必要がある米国の通商政策等による影響が一部にみられる中で、改善に足踏みがみられる
業況判断おおむね横ばいとなっているおおむね横ばいとなっている
倒産件数おおむね横ばいとなっているおおむね横ばいとなっている
雇用情勢改善の動きがみられる改善の動きがみられる
国内企業物価このところ上昇テンポが鈍化しているこのところ上昇テンポが鈍化している
消費者物価上昇している上昇している
月例経済報告7・8月の比較。
住宅建設、公共投資、企業収益の表記に変化がある。

以下、記述に変化のありました住宅建設、公共投資、企業収益について詳しくみていきます。

(2)住宅建設

①令和7年7月と令和7年8月の比較

令和7年(2025年)7月と8月の詳細を、以下記載します。

令和7年7月令和7年8月
住宅建設は、おおむね横ばいとなっている。



ただし、新設住宅着工戸数は、建築物省エネ法及び建築基準法の改正に伴う駆け込み需要の反動もあり、4 月は前月比42.2% 減、5月は前月比15.6%減の年率52.9 万戸となった。

持家及び貸家は、横ばいとなっている。
分譲住宅は、おおむね横ばいとなっている。


なお、首都圏のマンション総販売戸数は、おおむね横ばいとなっている。

先行きについては、当面、横ばいで推移していくと見込まれる。
住宅建設は、建築物省エネ法等改正に伴う駆け込み需要の反動もあり、このところ弱含んでいる。

新設住宅着工戸数は、4月は前月比42.2%減、5月は前月比15.6%減、6月は前月比22.4%増の年率64.7 万戸となった。


利用関係別にみると、持家及び分譲住宅は、このところ弱含んでいる。
貸家は、横ばいとなっている。

なお、首都圏のマンション総販売戸数は、おおむね横ばいとなっている。

先行きについては、当面、弱含みで推移していくと見込まれる。
住宅建設の比較。
令和7年7月は住宅建設が横ばいでしたが、8月は法改正の反動で弱含みに転じ、持家・分譲住宅の着工が減少傾向にあります。貸家とマンション販売は安定しています。

②解説

令和7年7月と8月の月例経済報告における住宅建設の記述を比較すると、両月ともに「横ばい」や「弱含み」といった表現が目立ち、住宅市場が大きく変動していないことがうかがえます。しかし、細かく見ていくと、建築物省エネ法および建築基準法の改正に伴う「駆け込み需要の反動」が、着工戸数や住宅種別の動向に影響を与えていることが明確に読み取れます。

まず、令和7年7月の報告では、住宅建設全体について「おおむね横ばい」と評価されています。持家・貸家・分譲住宅のいずれも「横ばい」とされており、首都圏のマンション販売戸数も「おおむね横ばい」と記述されています。全体としては安定した状況が続いているように見えますが、新設住宅着工戸数に関しては、4月に前月比42.2%減、5月に15.6%減と大幅な落ち込みが記録されており、これは法改正前の駆け込み需要の反動によるものと分析されています。

一方、令和7年8月の報告では、住宅建設について「このところ弱含んでいる」と表現されており、7月の「横ばい」からやや後退した評価となっています。特に持家と分譲住宅については「このところ弱含んでいる」と明記されており、需要の減退傾向が見られます。貸家については引き続き「横ばい」とされており、安定した需要が続いていると考えられます。

注目すべきは、新設住宅着工戸数の推移です。7月の報告では4月・5月の減少が強調されていましたが、8月の報告では6月に前月比22.4%増の年率64.7万戸と回復傾向が見られたことが追加されています。これは、反動減の底を打ち、一定の回復が始まった可能性を示しています。ただし、報告全体のトーンは依然として慎重であり、「先行きについては、当面、弱含みで推移していくと見込まれる」とされている点からも、持続的な回復には不透明感が残ります。

このような動向の背景には、法改正による市場の一時的な混乱があります。建築物省エネ法や建築基準法の改正は、住宅の性能向上を目的としたものであり、長期的には住宅の質の向上や環境負荷の軽減につながります。しかし、短期的には駆け込み需要やその反動によって着工戸数が乱高下する傾向があります。特に持家や分譲住宅は、購入者の判断が価格や制度変更に敏感であるため、影響を受けやすいといえます。

また、首都圏のマンション販売戸数が両月とも「おおむね横ばい」とされている点も注目に値します。マンション市場は、土地の制約や都市部の需要に支えられて比較的安定していますが、価格高騰や金利動向によって今後の販売状況に変化が生じる可能性もあります。

総じて、令和7年7月と8月の住宅建設に関する報告は、法改正の影響を受けた一時的な変動を含みつつも、全体としては「横ばい」から「弱含み」への移行が見られます。今後の住宅市場の動向を見極めるには、制度変更の定着状況や消費者の購買意欲、金利や物価の動向など、複合的な要因を注視する必要があるでしょう。

住宅建設

(3)公共投資

①令和7年7月と令和7年8月の比較

令和7年(2025年)7月と8月の詳細になります。

令和7年7月令和7年8月
公共投資は、底堅く推移している。

5月の公共工事出来高は前月比0.1%減、6月の公共工事請負金額は同4.0%減、5月の公共工事受注額は同13.0%減となった。

公共投資の関連予算をみると、公共事業関係費は、国の令和6年度一般会計予算では、補正予算において約2.4 兆円の追加額を計上しており、補正後は前年度比1.4%増となっている。

また、令和7年度一般会計予算の公共事業関係費は、前年度当初予算比0.0%増となっている。

さらに、令和7年度地方財政計画では、投資的経費のうち地方単独事業費について、前年度比0.0%となっている。

先行きについては、関連予算の執行により、底堅く推移していくことが見込まれる。
公共投資は、堅調に推移している。

6月の公共工事出来高は前月比2.5%増、7月の公共工事請負金額は同0.4%増、6月の公共工事受注額は同1.7%増となった。

公共投資の関連予算をみると、公共事業関係費は、国の令和6年度一般会計予算では、補正予算において約2.4 兆円の追加額を計上しており、補正後は前年度比1.4%増となっている。

また、令和7年度一般会計予算の公共事業関係費は、前年度当初予算比0.0%増となっている。

さらに、令和7年度地方財政計画では、投資的経費のうち地方単独事業費について、前年度比0.0%となっている。

先行きについては、関連予算の執行により、堅調に推移していくことが見込まれる。
公共投資の比較。
令和7年7月は公共投資が底堅く推移していましたが、8月は工事指標が改善し堅調に転じ、安定から成長への移行が見られます。

②解説

令和7年7月と8月の月例経済報告における公共投資の記述を比較すると、両月ともに安定した推移が見られるものの、表現には微妙な変化があり、実態の違いが浮き彫りになっています。7月は「底堅く推移している」とされていたのに対し、8月では「堅調に推移している」と評価がやや上向いています。これは、公共工事関連の各種指標に改善が見られたことが背景にあると考えられます。

まず、公共工事の出来高・請負金額・受注額の動向を見てみましょう。7月の報告では、5月の公共工事出来高が前月比0.1%減、6月の請負金額が4.0%減、5月の受注額が13.0%減と、いずれもマイナスの数値が並んでいました。これにより、公共投資は「底堅く推移している」とされ、減少傾向の中でも一定の安定性が保たれているとの見方が示されていました。

一方、8月の報告では、6月の出来高が前月比2.5%増、7月の請負金額が0.4%増、6月の受注額が1.7%増と、すべての指標がプラスに転じています。これにより、公共投資は「堅調に推移している」と評価され、実際の工事活動が活発化していることがうかがえます。特に、受注額の増加は今後の工事量の拡大を示唆しており、公共投資の持続的な成長に対する期待が高まります。

このように、実際の工事活動においては、8月に入ってから回復の兆しが見られています。これは、補正予算の執行が進んだことや、地方自治体による事業の着手が本格化したことが要因と考えられます。特に、地方単独事業費が横ばいであるにもかかわらず、出来高や受注額が増加している点は、既存予算の効率的な活用が進んでいることを示しています。

先行きについては、7月の報告では「底堅く推移していくことが見込まれる」とされていましたが、8月では「堅調に推移していくことが見込まれる」と表現が変化しています。この違いは、実際の数値の改善を反映したものであり、公共投資が安定から成長へと移行しつつあることを示唆しています。

総じて、令和7年7月と8月の公共投資に関する報告を比較すると、工事活動の実績においては明確な回復傾向が見られます。これにより、公共投資は「底堅い」段階から「堅調」な成長へと移行しつつあり、今後の経済活動の下支えとして重要な役割を果たすことが期待されます。

建設工事

(4)企業収益

①令和7年7月と令和7年8月の比較

令和7年(2025年)7月と8月の詳細です。

令和7年7月令和7年8月
企業収益は、改善しているが、通商問題が及ぼす影響等に留意する必要がある。


「法人企業統計季報」(1-3月期調査)によると2025 年1-3月期の経常利益は、前年比3.8%増、前期比2.6%減となった。

業種別にみると、製造業が前年比2.4%減、非製造業が同7.0%増となった。

規模別にみると大・中堅企業が前年比3.4%増、中小企業が同4.6%増となった。

「日銀短観」(6月調査)によると、2025 年度の売上高は、上期は前年比1.9%増、下期は同0.9%増が見込まれている。

経常利益は、上期は前年比4.5%減、下期は同6.9%減が見込まれている。
企業収益は、米国の通商政策等による影響が一部にみられる中で、改善に足踏みがみられる。

上場企業の2025 年4-6月期の決算をみると、経常利益は、製造業、非製造業ともに前年比で減益となった。







「日銀短観」(6月調査)によると、2025 年度の売上高は、上期は前年比1.9%増、下期は同0.9%増が見込まれている。

経常利益は、上期は前年比4.5%減、下期は同6.9%減が見込まれている。
企業収益の比較。
令和7年7月は企業収益が改善傾向でしたが、8月は通商政策の影響で足踏み状態となり、製造業・非製造業ともに減益となっています。

②解説

令和7年7月と8月の月例経済報告における企業収益の記述を比較すると、両月ともに「改善」という表現が使われているものの、その内容には明確な違いが見られます。7月は「改善している」と前向きな評価がされていたのに対し、8月では「改善に足踏みがみられる」とされ、企業収益の勢いが鈍化していることが示唆されています。

まず、7月の報告では、2025年1~3月期の「法人企業統計季報」に基づき、経常利益が前年比3.8%増と改善傾向にあることが示されています。ただし、前期比では2.6%減となっており、四半期ベースでは減少している点に注意が必要です。業種別では、製造業が前年比2.4%減と振るわなかった一方、非製造業は7.0%増と好調でした。企業規模別では、大・中堅企業が3.4%増、中小企業が4.6%増と、いずれも前年を上回る結果となっています。

また、「日銀短観」(6月調査)によると、2025年度の売上高は上期が前年比1.9%増、下期が0.9%増と見込まれており、緩やかな成長が期待されています。一方、経常利益については、上期が4.5%減、下期が6.9%減と予測されており、利益面では厳しい状況が続く見通しです。これらのデータから、企業収益は改善傾向にあるものの、通商問題など外部要因への警戒が必要であると報告されています。

これに対して、8月の報告では、企業収益に対する評価がやや後退しています。「米国の通商政策等による影響が一部にみられる中で、改善に足踏みがみられる」とされており、外部環境の不透明さが企業収益の回復を妨げていることがうかがえます。特に、2025年4~6月期の上場企業の決算では、製造業・非製造業ともに前年比で減益となっており、業績の悪化が明確に表れています。

このような状況は、7月時点で見られた非製造業の好調さや中小企業の収益改善とは対照的であり、企業収益の回復が一時的なものであった可能性を示唆しています。また、日銀短観の売上高・経常利益の見通しは7月と同様であるため、企業の収益環境に大きな改善が見られていないことがわかります。

企業収益の足踏みの背景には、米国の通商政策の影響があるとされています。具体的には、関税措置や輸出入規制などが日本企業の海外展開や原材料調達に影響を及ぼしている可能性があります。特に製造業は、グローバルなサプライチェーンに依存しているため、通商問題の影響を受けやすい業種です。

一方で、非製造業も減益となっている点は注目すべきです。これは、国内需要の停滞やコスト増加、人手不足など、複合的な要因が影響していると考えられます。中小企業においても、原材料価格の高騰や賃上げ圧力が収益を圧迫している可能性があります。

総じて、令和7年7月と8月の企業収益に関する報告を比較すると、7月は改善傾向が見られたものの、8月にはその勢いが鈍化し、足踏み状態となっています。外部環境の不透明さが企業収益の回復を妨げており、今後の動向を見極めるには、通商政策の変化や国内経済の回復状況を注視する必要があります。企業収益の安定と成長には、政策支援や経済環境の改善が不可欠であり、引き続き慎重な対応が求められます。

企業

2.先行きについて

先行きについては、以下のとおりです。

令和7年7月令和7年8月
先行きについては、雇用・所得環境の改善や各種政策の効果が緩やかな回復を支えることが期待されるが、米国の通商政策の影響による景気の下振れリスクには留意が必要である。

加えて、物価上昇の継続が消費者マインドの下振れ等を通じて個人消費に及ぼす影響なども、我が国の景気を下押しするリスクとなっている。

また、金融資本市場の変動等の影響に一層注意する必要がある。
先行きについては、雇用・所得環境の改善や各種政策の効果が緩やかな回復を支えることが期待されるが、米国の通商政策の影響による景気の下振れリスクには留意が必要である。

加えて、物価上昇の継続が消費者マインドの下振れ等を通じて個人消費に及ぼす影響なども、我が国の景気を下押しするリスクとなっている。

また、金融資本市場の変動等の影響に一層注意する必要がある。
先行きの比較。
8月は7月と同内容となっている。

8月の記載は、先月と同内容となっています。

3.まとめ

令和7年7月と8月の月例経済報告を比較すると、住宅建設・公共投資・企業収益の3分野において、それぞれ異なる動きが見られました。

まず住宅建設については、両月とも「横ばい」や「弱含み」といった表現が使われており、市場全体としては大きな変動は見られません。ただし、建築物省エネ法および建築基準法の改正に伴う駆け込み需要の反動が、新設住宅着工戸数に影響を与えています。7月時点では4月・5月の着工戸数が大幅に減少していた一方、8月には6月の着工戸数が前月比22.4%増と回復傾向を示しました。持家・分譲住宅は弱含み、貸家は横ばい、首都圏マンション販売戸数は安定している状況です。先行きについては、慎重な見方が続いており、当面は弱含みで推移する見通しです。

次に公共投資については、7月は「底堅く推移している」とされていましたが、8月には「堅調に推移している」と評価がやや上向きました。これは、公共工事の出来高・請負金額・受注額がいずれもプラスに転じたことが背景にあります。特に受注額の増加は、今後の工事量の拡大を示唆しており、補正予算の執行や地方自治体による事業着手が進んでいることが要因と考えられます。予算面では大きな変化はないものの、既存予算の効率的な活用が進んでいる点は評価できます。

企業収益については、7月は「改善している」とされ、法人企業統計では前年比で経常利益が増加していました。非製造業や中小企業の収益改善が目立ちましたが、8月には「改善に足踏みがみられる」と評価が後退し、製造業・非製造業ともに減益となりました。米国の通商政策の影響が一部に見られ、外部環境の不透明さが企業収益の回復を妨げている状況です。日銀短観の見通しでも、売上高は緩やかな増加が見込まれる一方、経常利益は減少傾向が続くと予測されています。

先月と同様ですが、関税政策の動向が、大きな影響を与えています。

9月の月例経済報告が公表されましたら、再度、解説致します。

関税

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